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松下勝太郎 抜粋

葬儀の風習さまざま わたしの研究と蒐集 文人たち
     

わたしの研究と蒐集・各国の葬儀の本

出産や婚礼の奇習を調査している方も多いが、葬礼の習俗もなかなかに多い。
大正8年頃、直ぐ近所の斎藤玉英堂に民俗学的な葬儀習俗の本を探したいと相談したところ・親切に御紹介して下ったのが中山太郎さんで、その頃葬祭史を執筆なさるためしきりに資料を猟っておられた。期せずして相競っていた訳でした。
葬祭の方法を書いたものは多い。儒者のものには熊沢番山や但株の葬祭弁論とか葬祭塁とか、礼記の講述したものが多い。葬儀といっても、火葬のこと、墓に関するもの、儀礼の方法もあれば、風俗史的な興味で書かれたものもある。なかなか広範囲で、どれもこれもとはいかず、我国のものは江戸時代の教訓めいた葬礼の本、近くは香川大学の藤川教授の『魏晋時代の喪服礼の研究』があり外国のものは、丸善の古書課に八木佐吉さんがおられ、ド・ホロートの『支那宗教組織』を見せて下さった。約30何年か前であった。当時1千円かであったが、これが買えなかった。年移り戦後昭和33年の暮、緒方惟吉さんの御紹介で相知った平野藤吉さんからの電話で急ぎ行くと、この本6冊のオリヂナルな姿と対面することができた。曽我の対面以上だった。この本は京都の大雅堂から清水金二郎、荻野目広之さんの共訳で、第1巻だけが発行されたが、この後は出ていない様子だ。
バックルの『葬儀習俗の起源と発達』は中川良太郎著『英文学風物誌』に引用されているし、よく調べているが、吉田正俊さんは、こんな本は見たくもないといいながら紹介している。エッブイベンダン女史の『葬儀習俗の分析的研究』は故杉浦健一さんが詳細に解説しているし(この本はアメリカの葬儀屋組合の雑誌で知り、早速とりよせたのだが、杉浦さんが読んでいたのに、学者は悔しいと思った)。春山行夫さんが『死体処理法』を紹介されたこともある。

『死面(デスマスク)の歴史』は独文でエルンストベンカード著を持っていたし、英語版もあったが、戦災で焼失した・これを翻訳して出したらと思って、和製白髪ベートーベンに似た書物の鬼品川力さんに相談したら、つとに『永遠の貌』という題で翻訳出版されていることを教えられた。
トーマスハーデー翁も心臓を別に葬られたが、『心臓葬』は丸善の好事本目録に木村毅さんが紹介しておられた。
シカゴ大学の学生が全世界の葬儀費用調査の結果を纏めた「Funeral Cost WorldSurvey」には、我国の香てんを贈るのをtirnely loan書き、7週日以内にその半額を返さねばならないといってある。よく葬儀の本を鬼められてるそうですね、といって古い葬儀の記録や行列慢などを持って来て下さる方がある。まことに有難い話で『通夜物語』を届けて下さった御親切に感泣した事があった、鏡花のである。

図書新聞 昭和38年1月12日